Sさん:今回お話する「車載電源用低背型トランス」は、ハイブリッド自動車のDC/DC降圧コンバータに搭載される「LC共振用のコイル」と「電力変換用トランス」を一体化した製品です。
通常この2つは別々に取り付けるので実装スペースが広く必要です。それを〝一体化〟したことで搭載面積が小さくなり、小型化、軽量化を実現しました。
※下右写真:旧式コイル(左)と新型コイル。軽量化された平面の構造で小型化を実現
project story
クルマの未来を創造する磁気部品
日本の歴史を支えてきた自動車産業。今では、自動運転や安全設計の改善など、その革新はますます広がっています。クルマの未来が変われば、私たちの生活も大きく変わるでしょう。
長野日本無線のコンポーネント事業部車載部品技術部は、日本を代表する数々の自動車メーカー向けにトランスやチョークコイルなどの磁気部品を開発しています。クルマのイノベーションをここ長野から。未来のカーライフに貢献する、ものづくりの高揚と挑戦をお届けします。
PROFILE
Y・Sさん
コンポーネント事業部
副事業部長 兼 車載部品技術部長
T・Oさん
コンポーネント事業部 車載部品技術部
技術グループ 担当課長
T・Mさん
コンポーネント事業部
車載部品技術部 技術グループ
T・Yさん
コンポーネント事業部
車載部品技術部 技術グループ
自動車の可能性を拡張する
革新的な装置の設計開発の最前線
一体化でかなえた小型化・軽量化「車載電源用低背型トランス」
Oさん:実現のために、まずは付加価値は何かを考えました。その結果わかったメリットは、〝一体化=ものづくりをしやすい・組立てしやすい〟ということだったんですね。評判もよくて、ニーズにマッチしていると実感しています。
Sさん:私は入社して31年、ずっと磁気部品の開発設計部門に所属しています。近年開発してきた案件のなかでも「車載電源用低背型トランス」は、新たな設計コンセプトを難易度の高い製造技術で実現した革新的な製品だと自負しています。
Mさん:このプロジェクトで、私やYさんは機構設計を担当しました。
Yさん:私は機構設計のほかに、製品を使用したときの温度の上がり方や、負荷をかけたときの力のかかり方などのCAE解析(※)もしました。
※CAE(Computer Aided Engineering)解析:設計した製品を実際につくる前にパソコンで 熱や力についてシミュレーションする解析技術
Oさん:みんなの力がひとつになった開発でしたね。
...そういえば私が入社した当時の車載部品事業の前身である「電子部品事業」では、設計業務を分担して行う文化がなく、私のような電気設計者も機構設計をしていました。
近年は製品構造やCAE解析の導入などで、設計の高度化が進み、それぞれの設計業務でエキスパート化を推進して行く目的で、役割分担した体制に変わってきています。
しかしながら、私が実感することは、よい製品を設計するためには機構的な知識のみではなく、電気的な知識も含めたさまざまな視点からの設計検討も必要と考えています。なので最近は、Yさんに業務の合間をみながら、電気設計についても勉強してもらっています。
〝キーパーツ〟といわれる製品はカスタム設計
ハードルが高いからこそ諦めない
失敗できない製品を完成させるまで
Sさん:DC/DCコンバータ用トランスと共振コイルの検討依頼を受けたのは、2016年11月。最初のお客さまの要求仕様は、「基本的な電気仕様」「製品のサイズ」くらいでした。
Yさん:最初の構想って、フワフワしていますからね。必要なのは我々の部品だけではなく、関連部品との調整だったり、端子の引き回しの位置であったり。そういうのがすべて絡んでくるので、最初は完成形がイメージできないものですよね。
Sさん:実は我々の部品ってカスタム設計品が多いんですよ。でもお客さまには、認識されていない。ーーーというのも、ほかの部品は比較的標準品が多くて、形状的にバリエーションがないせいか、カスタマイズできないものだと認識されてしまうようです。
Mさん:我々が設計開発している部品というのはカスタム品です。コストもかかりますが、重要な性能を備えています。なので、キーパーツといわれているんです。当然、お客さまからの要求はとても厳格で、難易度が高いです。
Sさん:実際の開発設計ではお客さまとの仕様すり合せのなかで、何度も仕様変更があって。「空いているスペースがどんどん複雑化してしまう」「限られたスペースのなかで、どう要求仕様を満たすか」と頭を悩ませたこともあります。
試行錯誤の結果たどり着いたのが、ひとつのケースに「トランス」と「共振コイルの巻線部」を入れて、そのケースのなかに充填剤を注入した一体化構造です。
そこからは、さらなる薄型化の要求をいただいて、構造と製法を再検討。最終的には「トランスと共振コイルの巻線」に「シート状銅板コイル」を積層した〝 一体成形構造〟に辿り着き、承認をいただくことができました。
Mさん:でも、そのあとも大変でした。受注が確定して金型までつくった段階で仕様の追加を求められました。...時間もなくて、あのときが一番大きなハードルでした。
Yさん:成形メーカーに出向いては検証を重ねたり、何度もすり合わせをしたりしました。
Sさん:こうしてお客さまからの量産受注が決まった段階で、製造・生産技術・品質保証などの部門も加わり部門横断チーム(CFT = Cross Function Team)を編成します。IATF規格に基づいた検証や品質など、さまざまな知見でディスカッションしながら量産にもっていくんです。
Yさん:技術部門だけでは、量産まではこぎつけられないので。
Oさん:この案件では、Mさんが非常に苦労したなと思います。また、今回のお客さまは初めてのお客さまだったことも難しさのひとつでした。
お客さまでは今回の車載電源は、失敗できない案件として捉えられていました。「石橋を叩いてわたる」雰囲気で、現品の評価も細かったと思います。カスタマイズ品を担うニッチなものづくりに挑むからこそ、やりとりには気を遣っています。
Mさん:たしかに要求が多くて大変でしたが、新規のお客さまからの受注を達成できたのはうれしかったです。新しいコンセプトの製品をつくり上げたことのやりがいも大きかった。Yさんはどうでした?
Yさん:そうですね、大変でしたけど、設計した部品が使われている車が実際に走っている姿を見ると...やっぱり感動しますよね。
Oさん:車載部品技術部で担当する部品は、普段の生活でよく目にする製品に使われているからね。それは仕事をするうえで喜びにつながります。製品開発は数年に渡るので、製品に対して思い入れも強くなり、苦労して育てた我が子のような感覚が芽生えますね。
Yさん:このプロジェクトではMさんのサポート役でしたが、導電性異物に厳しいチェックが入ったとき、チームで顕微鏡レベルで作業したり。完成度を80%から100%にもっていく過程が、とても大事だと感じました。
Sさん:我々が普段携わっている案件は、企画から量産まで4〜5年を要します。しかし今回は3年。短納期だったことが大きなハードルだったといえます。でも私は、チームメンバーと重ねる苦労はいとわない。やっぱり人間って窮地に追い込まれたときに、新しいアイデアが浮かんだりするじゃないですか。火事場の馬鹿力というのかな。
あと、時代とともに電源自体がどんどんバージョンアップしていくわけじゃないですか。たとえば同じ車に付いていた電源でも、次のモデルではよりコンパクトになっていく。一番面積を占める我々の部品が小さくなっていかなければ、電源自体は小さくならない。だから苦労はするけれど、技術面の進化をさらに進めたい。
私の役割は「やっちゃいけない」は極力言わず、チームメンバーにはどんどん新しいコンセプトや技術に挑戦してもらうこと。そうでないと、価格競争の土俵に立たされることになってしまう。技術力と創造力で勝負したいじゃないですか。
海外へ挑む長野日本無線へ
トライ&チャレンジができる文化を楽しもう
グローバル展開を見据えた今後の動き
Oさん:Sさんが言ったように、車載部品事業では「やっちゃいけない」がありません。トライ&チャレンジできる文化がある。とくに自動車部品に関しては新しい何かを求められることが多いので、提案をすると喜ばれることが多いです。チャレンジ精神あふれる人に向いていると思いますね。
Mさん:私もそう思います。いつもチャレンジする場を与えてもらっています。
Yさん:私はもともと大学でソフトウェア系の研究をしていました。長野日本無線に入社して機構設計に携わるようになったので、まったくの未経験からのスタートでした。あまり知識をもっていない人でもどんどんチャレンジさせてくれるのは、当社のとてもいいところだと思っています。
Sさん:設計者からすれば、自分が描く製品づくりに挑戦できる。それが魅力だよね。あと長野日本無線のお客さまは、日本企業がメインでグローバル企業じゃなかったんです。それが近年ではマーケットの拡大にともない、海外へも展開を始めました。これから入社する人には、英語を話せる人財とか、グローバルな人財も増えたらうれしいですね。